s波超伝導であっても,スピン軌道相互作用が強い場合にはトポロジカル超伝導体になることが明らかにされ,
近年注目を集めている.
本研究は,この系のトポロジカル量子相転移の臨界性が従来知られたものと異なることを指摘した.
考える系はラシュバスピン軌道相互作用のある二次元電子系である. さらに,ゼーマン相互作用も加わると,下図(a:ラシュバスピン軌道相互作用がゼーマン相互作用より大),(b:ラシュバスピン軌道相互作用の方が小さい)に示したように,運動量の原点にギャップが生じる. この(おおよそ)ギャップ内にフェルミ準位が位置しているときに(-μc < μ < +μ)s波超伝導が生じると,フルギャップのトポロジカル超伝導体になる. フェルミ面の観点からは,二通りの相転移が起こりうる. すなわち,フェルミ面が一枚から二枚に変わる場合(図(a)のμ=±μc,および図(b)のμ=+μc) と,一枚からフェルミ面が消える場合(図(b)のμ=-μc)である. 実際に,この二通りの相転移において,超伝導状態における表面状態の変化が異なる. 前者の相転移点でのエネルギースペクトルを示したのが図(c)であり,赤線で示した表面状態がまだ残っていることが分かる. これに対して,後者の相転移点では図(e)に示す通りに,表面状態が完全に消えてしまう. こうした表面状態から見た臨界性の違いは,通常金属を介したトンネルコンダクタンスの違いにも反映される. 前者のような転移では,表面状態が存在していることから,後者の転移(図(f))に比べてトンネルコンダクタンスは大きな値をとり, かつ,バイアス電圧の正負の非対称性がほとんどない(図(e)). なお,よく知られたトポロジカル超伝導体であるカイラルp波超伝導体では後者のような量子相転移しか起きない. 前者の量子相転移は,スピン軌道相互作用によって駆動されるトポロジカル超伝導体において初めて見出されるものである. |
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これまで考えられてきた相転移の臨界性には,系の次元と対称性のみが関与する思われていたが, トポロジカル量子相転移においては系の電子状態の詳細が影響を及ぼしうることが本研究によって指摘された. |
参考文献Ai Yamakage, Yukio Tanaka, Naoto Nagaosa: Phys. Rev. Lett. 108, 087003 (2012) |